大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)107号 判決 1970年5月07日
原告 俵松林材工業株式会社
被告 港税務署長
主文
原告の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者双方の申立て)
一、原告
(一) 被告が原告に対し、昭和三九年六月二九日付で、原告の昭和三五年一二月一日より昭和三六年一一月三〇日に至る事業年度の法人税について、所得金額を金二、五八七、三六七円、法人税額を金八八三、一七〇円、翌期以降に繰り越される欠損金額を零円としてなした更正処分、および昭和三六年一二月一日より昭和三七年一一月三〇日に至る事業年度の法人税について、所得金額を金七、二八〇、九二六円、法人税額を金二、六六六、七四〇円、翌期以降に繰り越される欠損金額を零円としてなした更正処分は、いずれもこれを取り消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二、被告
主文と同旨の判決。
(当事者双方の主張)
第一原告の請求原因
一、原告は、大阪地方裁判所において、昭和三一年六月二八日会社更生手続の開始決定を受け、ついで昭和三三年六月二七日更生計画の認可を受け、更に昭和三八年二月二二日会社更生手続の終結決定を受けて、現在木材販売および製材業を営んでいる、資本金五、三九五、〇〇〇円の株式会社であるが、昭和三七年一月三一日、原告の昭和三五年一二月一日より昭和三六年一一月三〇日に至る事業年度(以下第一の事業年度という。)の法人税について、所得金額、および法人税額をいずれも零円、翌期以降に繰り越される欠損金額を金八、〇六五、七〇〇円として確定申告(青色申告)をし、また、昭和三八年一月三一日、原告の昭和三六年一二月一日より昭和三七年一一月三〇日に至る事業年度(以下第二の事業年度という。)の法人税について、所得金額、および法人税額をいずれも零円、翌期以降に繰り越される欠損金額を金一、三〇〇、一三八円として確定申告(青色申告)をしたのに対し、被告より、いずれも昭和三九年六月二九日付、翌三〇日通知の書面で、第一の事業年度の法人税について、所得金額を金二、五八七、三六七円、法人税額を金八八三、一七〇円、翌期以降に繰り越される欠損金額を零円とする更正処分、および第二の事業年度の法人税について、所得金額を金七、二八〇、九二六円、法人税額を金二、六六六、七四〇円、翌期以降に繰り越される欠損金額を零円とする更正処分(再更正)を受けたので、同年七月二九日被告に対し、異議の申立てをしたところ、被告より、同年一〇月二七日付の書面で異議申立てを却下され、更に、同年一一月二六日大阪国税局長に対し、審査請求をしたところ、昭和四〇年七月一五日付、同月一七日通知の書面をもつて、審査請求を棄却する旨の裁決がなされた。
二、本件各更正処分の理由は、第一の事業年度の更正処分については、繰越欠損金控除の誤謬、金二、五八七、三六七円を加算したというのであり、第二の事業年度の更正処分(再更正)については、繰越欠損金控除の誤謬、金七、五一三、〇一八円、および寄付金限度超過額金一三、三七八円の合計金七、五二六、三九六円より前期分未納事業税金二四五、四七〇円を差し引いた金七、二八〇、九二六円を加算したというのである。
三、しかしながら、被告が右各繰越欠損金を否認し、これを所得金額の計算上損金に算入しなかつたのは違法であるから、ここに本件各更正処分の取消しを求める。
第二被告の答弁および主張
一、請求原因一については、原告が昭和三八年二月二二日会社更生手続の終結決定を受けて、現在木材販売および製材業を営んでいる資本金五、三九五、〇〇〇円の株式会社であるという点を除き、その余の事実はすべて認める。
同二の事実も認める。
同三の主張は争う。
二、被告が原告に対し本件各更正処分をした理由は、つぎのとおりである。
(一) 原告は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条五項の適用を受け、第一または第二の事業年度の開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた損金を、右の各事業年度の所得金額の計算上繰り越して控除することを認められた法人であるが、第一の事業年度の確定申告書において、つぎの欠損金額を、右事業年度の所得金額の計算上、損金に算入しうるものとしていた。
欠損金額が生じた事業年度
欠損金額
(1) 自昭和二九年一二月一日至昭和三〇年一一月三〇日
一〇一、八九八円
(2) 自昭和三二年六月二八日至昭和三三年六月二七日
九、七九〇、〇五六円
(3) 自昭和三三年六月二八日至同年一一月三〇日
七六一、一一三円
計
一〇、六五三、〇六七円
なお、自昭和三〇年一二月一日至昭和三一年六月二七日、自同年六月二八日至昭和三二年六月二七日、自昭和三三年一二月一日至昭和三四年一一月三〇日、自同年一二月一日至昭和三五年一一月三〇日の各事業年度においては、欠損金額が生じなかつた。それ故、(1)の欠損金額は、これらの事業年度で控除した残りの金額である。
(二) しかしながら、昭和二九年一二月一日より昭和三〇年一一月三〇日に至る事業年度(以下(1)の事業年度という。)の欠損金額は、第一の事業年度の開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じたものではないから、これを第一の事業年度以降に繰り越して控除することはできない。また、昭和三二年六月二八日より昭和三三年六月二七日に至る事業年度(以上(2)の事業年度という。)、および昭和三三年六月二八日より同年一一月三〇日に至る事業年度(以下(3)の事業年度という。)においては、欠損金額が生じていない。即ち、被告が主張する右各事業年度の所得金額の計算の過程を、原告の申告額と対比して示すと、別表(一)および(二)記載のとおりになる。
まず、(2)の事業年度において、原告は、確定申告書に添附された損益計算書に、営業外収益として計算した、別表(一)の(7)乃至(10)に記載された各金額を、所得金額の計算上益金の額に算入しないものとして計算し、その欠損金額を金九、七九〇、〇五六円として申告をした。しかし、これは、昭和四〇年法律第三六号による改正前の会社更生法二六九条三項の解釈を誤つたため、右各金額を益金に算入しなかつたものというべきである。つまり、
A 更生手続開始のときまでの各事業年度の法人税額 金一七八、四三四円
B 更生手続開始前から繰り越された損金(旧法人税法九条五項または六項の規定の適用を受ける損金を除く。)
金二、〇三一、七六六円
C 更生手続開始のときにおける旧法人税法一六条一項に定める積立金 金四、八九一、六七四円
D 法人税の引当金 金一一四、二〇七円
とした場合に、右会社更生法二六九条三項に規定されている益金の額に算入しないこととなる金額とは、AにBを加算した金額より、CにDを加算した金額を差し引いた金額に達するまでの財産の評価換え、および債務の消滅による益金の額をいうのであるが、これを右各金額によつて計算してみると、CにDを加算した金額の方が、AにBを加算した金額よりも金二、七九五、六八一円も多額になるから、右条項により益金の額に算入しないこととなる金額は発生しない。
つぎに、(3)の事業年度において、原告は、確定申告書に添附された損益計算書に、営業外収益として計算した別表(二)の(5)に記載された金額を、所得金額の計算上、益金の額に算入しないものとして計算し、その欠損金額を金七六一、一一三円として申告をしたのであるが、(2)の事業年度において、右会社更生法の条項に従つて益金の額に算入しないこととなる金額がすでに存在しない以上、(3)の事業年度においても、かような金額は発生しない。したがつて、別表(二)の(5)に記載された金額も、所得金額の計算上、益金の額に算入すべきである。
(三) しかるに、原告は、第一の事業年度において、前記繰越欠損金一〇、六五三、〇六七円を所得金額の計算上損金に算入しうるものとして、別表(三)A欄記載のとおりに計算の上、申告をし、また第二の事業年度において、繰越欠損金八、〇六五、七〇〇円を所得金額の計算上損金に算入しうるものとして、別表(四)A欄記載のとおりに計算の上、申告をした。しかしながら、すでに述べたとおり、第一の事業年度においては繰越欠損金は存在しなかつたのであるから、第一および第二の各事業年度における所得金額の計算は、別表(三)および(四)の各B欄記載のとおりになる。したがつて、本件各更正処分には違法な点がない。
第三被告の主張に対する原告の応答および反対主張
一、被告の主張二(一)(二)の各事実はすべて認める。
同二(三)の事実のうち、原告が第一および第二の各事業年度の法人税について、別表(三)および(四)の各A欄記載のとおりの申告をしたこと、および別表(三)の(2)のB欄、別表(四)の(2)乃至(13)のB欄記載の金額は、いずれもこれを認める。別表(三)の(1)、(3)乃至(5)のB欄、および別表(四)の(1)、(14)乃至(16)のB欄における被告の主張額は、いずれもこれを争う。
二、本件各更正処分は、つぎのような理由により違法である。
(一)(1) 原告は、前記のとおり更生計画の認可決定を受けたので、昭和三二年六月二八日より昭和三三年六月二七日に至る更生会社認可決定年度((2)の事業年度)の法人税について、翌期以降に繰り越される欠損金額を金四六、六二一、六一五円として確定申告をし、また、(3)の事業年度の法人税について、翌期以降に繰り越される欠損金額を金四七、三八二、七二八円として確定申告をしたが、当時の所轄庁であつた西税務署長は、これらをいずれも承認してきた。むしろ、原告は、昭和三三年一二月一日より昭和三四年一一月三〇日に至る事業年度の法人税について、その前の事業年度より繰り越されてきた欠損金額を控除した上、確定申告をしたのに対し、西税務署長より申告是認通知を受けたこともあつたのである。更に、原告はその後の各事業年度の法人税についても、各繰越欠損金を控除した上、確定申告をしたのに対し、第二の事業年度の法人税についてのみ、昭和三八年六月二九日付で、翌期以降に繰り越される欠損金額金一、三〇〇、一三八円という申告額を金五五二、六八二円に減額する旨の更正処分を受けたのにすぎないのであつて、これ以外の各事業年度の翌期以降に繰り越される欠損金額は、すべて承認されてきたのである。したがつて、承認された欠損金額はそのまま課税庁により是認され確定されたものといわねばならない。
(2) 国税通則法の施行日前に法定申告期限が到来した事業年度の法人税についても、本件のように申告された欠損金額に誤りがある場合には、たとえこれを修正してもなお納税義務が生じない場合であつても、これをそのまま放置すべきではなく、これを否認し更正する手続をとるべきであり、それをしない限り、その後の事業年度の所得金額の計算上損金に算入しうる繰越欠損金として是認されたことになるものと理解すべきである。しかるに、被告はそのような手続をとらないで、単に繰越欠損金控除誤謬の訂正ということを理由に、本件各更正処分をなしたにすぎないのであるから、本件各更正処分は、この点において違法である。
(3) しかも、更正の場合には、旧法人税法三一条の二第一項本文によれば、確定申告書の提出期限より三年、国税通則法施行後は、同法七〇条二項により、右期限より五年を経過した日以後においては、更正をなしえないとされている。本件各更正処分は、繰越欠損金の誤謬の訂正をその理由とするとはいうものの、実質的には、過去において発生したものとして申告された欠損金額を更正し否認しようというのであるから、本件各更正処分の場合には、右期間制限の法意からいつて許されない。
(二) 仮に、翌期以降に繰り越される欠損金額を誤謬訂正という理由で変更しうるとしても、本件各更正処分は、禁反言ないし信義誠実の原則に反しているから許されない。
即ち、第三の二(一)(1)において述べたとおり、(1)乃至(3)の各事業年度における翌期以降に繰り越される欠損金額については、所轄庁によつて承認され、あるいは是認通知がなされてきたので、原告はこの損金控除の取扱いを信じ、これを基礎として会計処理をしてきたのである。もしこのような損金控除の取扱いが是認されないということが早期に判明しておれば、更生計画の変更認可手続を経ることも可能であつたし、また税法上認められている減価償却費の繰越し、および繰り越された減価償却費の償却を実施し、あるいは役員賞与の取扱い等を合理的にする等のことも可能であつたのである。しかるに本件各更正処分は、原告のこのような期待をふみにじり、原告の予測しない税負担を賦課しようとするものであるから、許されないといわねばならない。
第四原告の反対主張に対する被告の反論
一、原告の反対主張二(一)について
確かに、法人の所得は、原則として各事業年度ごとに計算し把握すべきものである。しかし、国税通則法施行前における旧法人税法には、国税通則法二四条(一九条一項、二条六号ハ)、七〇条二項三号のような規定は設けられていなかつた。それ故、税務署長は、申告された欠損金額が過大であると認めた場合であつても、申告と同時にその繰戻しによる税額の還付の請求がなされない限り、欠損金額を減少させる更正をし、当該事業年度の欠損金額を確定させることはできず、その後の事業年度において積極所得が生じた場合に、同事業年度の課税標準または法人税額を算出し更正するに際して、その前提問題として、繰り越すことのできる正当な欠損金額、即ち過年度の欠損金額の申告の当否を判断するしか方法がなかつたのである。したがつて、その場合の欠損金額の是正措置そのものについて、除斥期間というものは考えられなかつたし、欠損金額の申告にも、一応にもせよ、これを確定させるような効力を認めることはできなかつたのである。ただ実務においては、国税通則法の施行前においても、税務署長が申告された欠損金額が過大であることを発見した場合には、欠損金額の修正通知をして、申告法人に警告する慣例となつていたが、これはあくまでも便宜上の行政措置であつたにすぎない。これに対して、国税通則法は、前記のような法条を新設することによつて、欠損金額を各事業年度ごとに確定していくことにしたのであるが、経過規定として、国税通則法の施行等に伴う関係政令の整備等に関する政令附則四条を設けたことにより、欠損金額を減少させる更正に関する国税通則法の規定は、同法の施行日以後に法定申告期限が到来するものについてだけ適用し、同法の施行日前に法定申告期限が到来したものについては、従前どおりの取扱いがなされるものとされたのである。そして(2)および(3)の各事業年度の法定申告期限は、いずれも国税通則法の施行前に到来していたものであるから、同法二四条、七〇条二項三号を適用して、欠損金額を減少させる更正をすることはできず、従前どおりの取扱いをするしか方法がなかつたのである。
二、同二(二)について
まず、禁反言ないし信義誠実の原則の法理は、もしその法理の適用を認めると、違法な結果が生じる場合には、その適用が阻却されるものと解すべきである。つぎに被告は、原告の(1)乃至(3)の各事業年度の申告において、欠損金額につき指導をしたことはないし、また欠損金額とした申告を是認したこともない。即ち、原告が主張する申告是認通知は、単に当該年度には、課税標準たる所得金額がない旨の申告を相当と認めたにすぎず、翌期以降に繰り越される欠損金額の存在を是認したものではないし、また昭和三八年六月二九日付更正処分も第二の事業年度の確定申告書に記載された課税標準等を更正したものにすぎないのである。更に本件各更正処分によつても、青色申告者の減価償却不足額を損金経理する機会を全く奪うわけではない。原告こそ益金に算入すべき金額を会社更生法に違反して益金に算入しなかつたため、当該年度に欠損金額が生じたという法律違反をおかしているのである。それ故、このような違法を是正するため、法の許す範囲内で昭和三五年度まで遡つて本件各更正処分をしたことをもつて、禁反言もしくは信義誠実の法理に反する無効なものであるということはできない。しかも課税処分は極めて公益性の強い、かつ典型的な覊束行為であるから、本件各更正処分に対して、禁反言ないし信義誠実の法理を適用することは、租税負担の公正、公平を害し、租税法律主義を破壊することになり、到底許されないものであるといわねばならない。
(証拠関係)<省略>
理由
一、原告の請求原因一については、原告が昭和三八年二月二二日会社更生手続の終結決定を受けて、現在木材販売および製材業を営んでいる、資本金五、三九五、〇〇〇円の株式会社であるという点を除き、当事者間に争いがなく、右の事実については、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。また同二の事実も、当事者間に争いがない。
二、そして、第一および第二の各事業年度に繰り越される欠損金額の有無に関するつぎのような事実も、当事者間に争いがない。
原告は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条五項の適用を受け、第一または第二の事業年度の開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた損金を、右の各事業年度の所得金額の計算上繰り越して控除することを認められた法人であるが、第一の事業年度の確定申告書において、つぎの欠損金額を、右事業年度の所得金額の計算上、損金に算入しうるものとしていた。
欠損金額が生じた事業年度
欠損金額
(1) 自昭和二九年一二月一日至昭和三〇年一一月三〇日
一〇一、八九八円
(2) 自昭和三二年六月二八日至昭和三三年六月二七日
九、七九〇、〇五六円
(3) 自昭和三三年六月二八日至同年一一月三〇日
七六一、一一三円
計
一〇、六五三、〇六七円
しかしながら、(1)の事業年度の欠損金額は、第一の事業年度の開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じたものではないから、これを第一の事業年度以降に繰り越して控除することはできない。
また、(2)の事業年度の欠損金額については、原告は、確定申告書に添附された損益計算書に、営業外収益として計算した、別表(一)の(7)乃至(10)に記載された各金額を、所得金額の計算上益金の額に算入しないものとして計算し、その欠損金額を金九、七九〇、〇五六円として申告したのであるが、これは、昭和四〇年法律第三六号による改正前の会社更生法二六九条三項の解釈を誤つたため、右各金額を益金に算入しなかつたのである。つまり、
A更生手続開始のときまでの各事業年度の法人税額 金 一七八、四三四円
B更生手続開始前から繰り越された損金(旧法人税法九条五項または六項の規定の適用を受ける損金を除く。)
金二、〇三一、七六六円
C更生手続開始のときにおける旧法人税法一六条一項に定める積立金
金四、八九一、六七四円
D法人税の引当金 金 一一四、二〇七円
とした場合に、右会社更生法二六九条三項に従い、益金の額に算入しないこととなる金額を、右各金額によつて計算してみると、CにDを加算した金額の方が、AにBを加算した金額よりも金二、七九五、六八一円も多額になるから、右条項により益金の額に算入しないこととなる金額は発生しない。それ故、別表(一)の(7)乃至(10)に記載された各金額は、所得金額の計算上益金の額に算入すべきこととなるから、(2)の事業年度においては、欠損金額は発生しないことになる。
更に、(3)の事業年度の欠損金額については、原告は、確定申告書に添附された損益計算書に、営業外収益として計算した、別表(一)の(5)に記載された金額を、所得金額の計算上、益金の額に算入しないものとして計算し、その欠損金額を金七六一、一一三円として申告したのであるが、(2)の事業年度において、右会社更生法の条項に従つて益金の額に算入しないこととなる金額がすでに存在しない以上、(3)の事業年度においても、かような金額は発生しない。それ故、別表(一)の(5)に記載された金額を、所得金額の計算上、益金の額に算入すべきこととなるから、(3)の事業年度においても、欠損金額は発生しないことになる。
三、したがつて、本件において問題となるのは、真実は第一および第二の各事業年度において、前五年以内の繰越欠損金額が存在しないにもかかわらず、原告がこれを存在するものとして確定申告したのに対し、これを修正する方法として、右各事業年度の法人税について更正処分をなすことが可能であるか、またそれが可能であるとしても、それのみで十分であるか、という点である。そこで、この点に留意しながら、原告の主張につき、以下において順次検討することとする。
(一) 原告は、まず第一に、(2)および(3)の各事業年度の法人税についての確定申告は、当時の所轄庁であつた西税務署長により承認されていたこと、昭和三三年一二月一日より昭和三四年一一月三〇日に至る事業年度の法人税の確定申告については、西税務署長より申告是認通知を受けたこと、第二の事業年度についてのみ、昭和三八年六月二九日付で、翌期以降に繰り越される欠損金額を減額する旨の更正処分を受けたが、これ以外の翌期以降に繰り越される欠損金額はすべて承認されてきたこと、以上の事実を主張して、これにより承認された欠損金額は、そのまま課税庁により是認され確定されたものである旨主張する。
いずれも成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、西税務署長は昭和三五年六月二九日付の書面で原告に対し、原告より提出された昭和三三年一二月一日より昭和三四年一一月三〇日に至る事業年度の確定申告書の欠損金額は、現在までの調査したところによれば、その申告が正当と認められますので、申告是認の処理をしましたから通知しますという内容の、法人税額等の申告是認通知をしたこと、また同署長は昭和三八年六月二九日付書面で原告に対し、第二の事業年度の法人税について、前五年以内の繰越欠損金額が誤つていたか否かについては全く触れないで、その外の理由により、翌期以降に繰り越される欠損金額を金一、三〇〇、一三八円より金五五二、六八二円に減額する旨の更正処分をしたことが認められる(右認定に反する証拠はない。)が、その外の原告主張事実については、これを認めるに足りる証拠はない。
ところで、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)も、九条五項において、「青色申告書を提出した法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた損金は、所得の計算上、これを損金に算入する」旨規定して、前五年以内の欠損金額の繰越控除を認めており、また国税通則法が施行になる以前の旧法人税法(以下単に旧法という。)の下においても、法人に、各事業年度について、納税義務のある場合のみならず、納付すべき法人税のない場合についても、政府に確定申告書を提出しなければならない義務があるものとされていた(旧法一八条八項)が、翌期以降に繰り越される欠損金額については、国税通則法の規定しているところとは異なつて(同法二条六号ハ、一九条一項二号参照)、確定申告書の記載事項とはされていなかつたのであり(旧法人税法施行規則二四条参照)、ただ法人は、原則として継続して事業を営むものであつて、後続の各事業年度において、法人税の課税対象となりうるものであるから、当該事業年度において、いかなる程度の欠損金額が生じたかを、あらかじめ課税庁において認識把握しておく必要があるので、旧法一八条六項により、同法九条の規定により計算した各事業年度の所得金額の計算に関する明細書を、旧法人税法施行規則二八条、旧法人税法施行細則九条、同細則別表四の二に定められている書式に則り作成して、確定申告書に添附すべきものとされていたのにすぎないのである(乙第二号証の四参照)。そして、申告書または修正申告書が提出された場合において、政府がその調査したところにより更正をなしうるのは、当該申告または修正申告に係る課税標準または法人税額がその調査したところと異なる場合、および、申告書または修正申告書の提出と同時に旧法二六条の四第一項の規定による法人税額の還付の請求がなされた場合に、当該請求の基礎となつた欠損金額がその調査したところと異なる場合で、しかも旧法三〇条の規定に該当する場合を除くときの二つの場合に限られるのである(旧法二九条)。それ故、法人が、法人税額の還付の請求を伴わずして納付すべき法人税がない旨の申告書を提出した場合においては、政府はその調査したところにより、課税標準および法人税額が存在すると認めれば、旧法三〇条に従いその旨の決定をするが、欠損金額をその調査したところにより修正しても、なお課税標準および法人税額が生じない場合には、これを更正する方法がなかつたのであり、この場合に、誤つた欠損金額を正当な金額に修正するには、後の事業年度において、課税標準および法人税額が存する旨の申告がなされ、または納付すべき法人税がない旨の申告書が提出されたが、その調査したところにより課税標準および法人税額が存すると認められた場合に、当該事業年度の更正または決定をする前提として、過年度の誤つた欠損金額を正当な金額に修正した上、正当な課税標準および法人税額を算出して更正または決定をなすという方法がとられていたのである。もつとも、旧法の下において、更正をなし得ない場合であつても、実務上納税者に対し、欠損金額の誤りを予告して、企業会計を早期に合理的かつ健全なものにする機会を与えるために、誤つた欠損金額を正当な金額に修正する旨の修正通知がなされる場合があつたが、この修正通知は、旧法人税法に根拠を有しておらず、したがつて、法的効果は全く認められていなかつたし、またこれに対して不服申立てをなすことも許されない、単なる事実上の行政措置にすぎなかつたのである。それ故、本件の場合のように、誤つた欠損金額に基づいてなされた確定申告に対して修正通知がなされた事実が認められないことの故をもつて、後の事業年度の所得金額を算定するに際し、その欠損金額を計算の基礎としてそのまま容認せざるを得ないというように解することはできないのである。また本件の場合には、前認定のとおり、昭和三三年一二月一日より昭和三四年一一月三〇日に至る事業年度の確定申告書の欠損金額を是認する旨の申告是認通知がなされているのであるが、この是認通知は、確定申告に対し更正処分がなされるかも知れないという納税者の不安を早期に解消させるためになされるものであるとはいえ、これまた旧法人税法に根拠を有しておらず、したがつて、法的効果は全く認められていない、単なる事実上の行政措置にすぎなかつたばかりでなく、このような欠損金額は、すでに検討したように、更正の対象とならなかつたのであるから、右申告是認通知がなされていることの故をもつて、後の事業年度の所得金額を算定するに際し、その欠損金額を計算の基礎としてそのまま容認せざるを得ないという意味での確定の効果は、これを認めることができないものと解すべきである。更に、前認定のとおり、被告は昭和三八年六月二九日付で第二の事業年度の法人税について更正処分をなしたのであるが、その理由の中で、前五年以内の繰越欠損金額が誤つていたか否かについては全く触れられていないことの故をもつて、その後の更正処分(再更正)をなすに際し、所得金額を算定する上で、右欠損金額を計算の基礎としてそのまま容認せざるを得ないという意味での確定の効果が生ずるものでないことはいうまでもない。
以上において検討したところに従えば、原告が右において指摘したような理由では、過年度より繰り越されてきた欠損金額をそのまま確定したものとして取り扱わねばならないという必然性のないことが明らかである。
(二) 第二に、原告は、旧法の下における法人税についても、申告された欠損金額が誤つている場合には、当然欠損金額につき更正をなすべきであるにもかかわらず、被告はこのような手続をとらなかつたから、本件各更正処分は違法である旨主張する。
ところで、旧法によれば、欠損金額については、その申告と同時に法人税額の還付の請求がなされた場合を除いて、更正の対象とならなかつたことは、前示のとおりである。ところが、昭和三七年四月一日に施行された国税通則法では、当該事業年度以前に生じた欠損金額で、翌事業年度以後の事業年度分の所得金額の計算上繰り越して控除することができるものについても、納税申告書の記載事項に含めることとし(同法二条六号ハ、一九条一項二号)、税務署長は、これに対してもその調査したところと異なるときは、その調査したところにより、更正をなしうるものとされたのである。そして、同法七〇条二項三号によれば、純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正の除斥期間は五年であると規定されているから、国税通則法が施行される前に法定申告期限が到来している事業年度の法人税についても、この除斥期間の範囲内であれば、なお更正の対象となる反面、除斥期間によつて除外されているものについては更正をなしえないことになるが、そうであるとすれば、本件の場合には、(2)および(3)の各事業年度の翌期以降に繰り越される欠損金額は、本件各更正処分がなされたときにすでに五年の除斥期間を経過していたことにより、更正の対象とはならないから、右欠損金額は確定したものとして取り扱わねばならないのではないかという疑問が生ずるのである。
しかしこの点に関して、法はつぎのような経過規定を設けている。即ち、国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備等に関する法律(昭和三七年法律第六七号)附則一九条は、「国税通則法附則及び前一八条に定めるもののほか、国税通則法及びこの法律第一章の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。」と規定し、この規定を受けて、国税通則法の施行等に伴う関係政令の整備等に関する政令(昭和三七年政令第一三六号。以下単に整備令という。)附則四条は、「国税通則法七〇条二項三号の規定は、法人税については、施行日以後に法定申告期限(同法二条七号に規定する法定申告期限をいう。以下同じ。)が到来するものについて適用し、施行日前に法定申告期限が到来したものについては、従来の例による。」と規定しているのである。したがつて、国税通則法七〇条二項三号にいう純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正については、国税通則法が施行されたことにより、同法二四条によつてこれをなしうるものとされたのであるが、実際に右二四条が適用になるのは、同法の施行日以後に法定申告期限が到来するものに限られ、施行日前に法定申告期限が到来したものについては、右二四条を適用しないで、なお旧法の下におけると同様の取扱いをなすべきものとされているのである。もつとも、整備令附則四条については、その引用する国税通則法七〇条二項が更正または賦課決定の除斥期間を定めた規定であるから、除斥期間のみを従前の例によるものと規定したにすぎないという解釈(つまり、この場合の除斥期間は、国税通則法によれば五年であるが、これを旧法の三年によるものとしたという解釈)の生ずる余地がないではない。しかしながら、証人福田光一の証言によれば、整備令附則四条についての立法者の意思は、除斥期間のみを従前の例によるものとするというところにあつたのではなく、国税通則法の施行日前に法定申告期限が到来したものについての、純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正は、旧法の下におけると同様の取扱いをなすべきものとするというところにあつたことが認められ、また、前示のとおり、旧法の下においては、欠損金額の申告と同時に法人税額の還付の請求がなされる場合を除いて、欠損金額を減少させる更正という観念はなかつたのであるから、更正そのものが存在しなかつたにもかかわらず、更正の除斥期間のみを従前の例によると解するのはいかにも不合理である。それ故、整備令附則四条が国税通則法七〇条二項三号を引用しているのは、多少不正確の謗りを免れないが、その意味するところは、同法二四条に規定されている更正中、純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正そのものについて経過規定を設けたものと理解するのが最も合理的であるということになる。そうすると本件の場合には、国税通則法の施行日前に法定申告期限が到来した、(2)および(3)の各事業年度の翌期以降に繰り越される欠損金額については、旧法の下におけると同様に更正の対象とならず、その後課税標準および税額が生ずることになつた第一および第二の各事業年度の法人税について、過年度の誤つた欠損金額を正当な金額に修正した上、国税通則法二四条に従つて更正をなすということになるわけである。したがつて、本件各更正処分には、原告が右において指摘したような違法な点は存しないといわねばならない。
(三) 第三に、原告は、本件各更正処分は実質的には過去の事業年度において発生したものとして申告された欠損金額を更正し否認しようというのであるから、更正の除斥期間の法意からいつて許されない旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、国税通則法が施行になつても、整備令附則四条に経過規定が設けられたことにより、国税通則法の施行の日前に法定申告期限が到来したものについての欠損金額は、旧法の下におけると同様に更正の対象とはならないのであり、またそうであるからといつて、原告に対し旧法の下における取扱い以上の不利益を課する結果となるわけではないから、後の事業年度の所得金額の計算に際して、右欠損金額を修正するについて、更正の除斥期間の観念を適用ないし類推適用する余地は全くないものというべきである。したがつて、原告の右主張は失当である。
(四) 以上の説示によつて自ずから明らかなとおり、本件各更正処分は、前五年以内の繰越欠損金額が存在しないにもかかわらず、原告によりこれが存在するものとしてなされた確定申告を修正する方法としては、租税関係の諸規定に従つて正当になされたものというべきであり、また本件各更正処分のみで、右の方法として十分であつたというべきである。
四 最後に、原告は、本件各更正処分は禁反言ないし信義誠実の原則に反しているから許されない旨主張するので、この点について判断することとする。
原告が主張する禁反言ないし信義誠実の原則とは、要するに、自己の言動によつてある事実を表示したものは、右事実の存在を信じて利害関係を変更した相手方に対して、以後その事実の存在を否定することが許されなくなるというところにあると解せられるが、右の法原則は、法の根底に存する正義の観念から生ずるものである以上、単に私法の領域のみならず、公法の分野においても、等しく妥当する法原則であることはいうまでもない。また、本件においては、三(一)で認定したように、西税務署長は昭和三五年六月二九日付で原告に対し、原告より申告された欠損金額が正当であることを認める旨の申告是認通知をなしていたのであるから、本件各更正処分がなされたことにより、原告が右申告是認通知によつて抱いていた期待を裏切る結果となつたことは否定できない。しかしながら一方、禁反言ないし信義誠実の原則が正義の観念から生ずるものであるから、右の法原則を適用したため、違法な結果を容認することになるような場合には、その適用が慎重になされねばならないことは当然である。そして、右の申告是認通知が何らの法的効果も伴わない単なる事実上の行政措置にすぎないことは前示のとおりであり、また、本件更正処分は租税関係の諸規定に従つて正当になされたものであるし、更に、課税処分の場合には、特に租税負担の公平が強く要請されているにもかかわらず、仮に本件各更正処分が右の法原則を適用した結果取り消されるとすれば、原告は不当に課税を免れることとなる反面、本件各更正処分によつて、原告の期待に反する結果となつたことはともかくとして、格別税法上不利益な結果を招来するとは考えられないし、また現実に不測の損害を蒙つたという立証もなされていないのである。そうであるとすれば、本件各更正処分が禁反言ないし信義誠実の原則に反した違反な処分であるとは、到底認めることができない。したがつて、原告の右主張は失当である。
五 そして、第一の事業年度の法人税について、別表(三)の(2)のB欄記載の金額、および第二の事業年度の法人税について、別表(四)の(2)乃至(13)のB欄記載の金額については、いずれも当事者間に争いがないので、被告が、第一の事業年度の法人税について、繰越欠損金一〇、六五三、〇六七円を、また第二の事業年度の法人税について、繰越欠損金八、〇六五、七〇〇円をそれぞれ否認してなした本件各更正処分には、違法な点がない。
六 以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がなく失当であるから、棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 日野達蔵 喜多村治雄 南三郎)
別表(一)~(四)<省略>